羊肉はなぜ臭い?「香り」と「臭み」の違いを専門店が解説
「羊肉は臭い」
羊肉専門店を営んでいると、この言葉をよく耳にします。
一方で、実際に羊肉を食べた方からは、
「思っていたよりクセがなくて食べやすい」
という感想もあれば、
「ラムなのに羊らしい香りが少なくて物足りない」
という、正反対の感想をいただくこともあります。
なぜ、同じ羊肉でも評価が大きく分かれるのでしょうか。
その理由の一つは、羊肉が本来持っている「香り」と、品質の劣化などによって生じる不快な「臭み」が、同じものとして扱われていることにあります。
この記事では、羊肉の香りはどこから生まれるのか、羊肉らしい香りと不快な臭みは何が違うのかを、羊肉専門店の視点から解説します。
※この記事は、2020年にnoteで公開した記事をもとに加筆・再編集したものです。
羊肉の「香り」と「臭み」は別物
最初に結論をお伝えすると、羊肉本来の香りと、品質劣化によって発生する臭みは別物です。
羊肉には、牛肉や豚肉とは異なる、羊肉ならではの香りがあります。
この香りを「羊らしくておいしい」と感じる人もいれば、「クセがある」と感じる人もいます。
これは個人の好みや、これまでの食経験による違いです。
一方で、保存状態の悪化や脂肪の酸化、微生物の増殖などによって発生する不快な臭いは、羊肉本来の個性とはいえません。
つまり、
「羊肉らしい香りが強い肉」
と、
「品質が低下して臭くなった肉」
は分けて考える必要があります。

羊肉特有の香りはどこから来るのか
羊肉らしい香りには、脂肪に含まれるさまざまな成分が関係しています。
羊肉に特徴的な香りに深く関係しているのが、分岐鎖脂肪酸と呼ばれる成分です。 代表的なものには、次のような成分があります。
- 4-メチルオクタン酸
- 4-エチルオクタン酸
- 4-メチルノナン酸
こうした成分は主に羊の脂肪に含まれており、加熱されることで揮発し、羊肉特有の芳醇な香りとして感じられるようになります。
ただし、羊肉の香気は一つの成分だけで決まるものではありません。
羊の年齢(ラム/ホゲット/マトン)や性別、品種はもちろん、食べた飼料(牧草や穀物)によっても香りの質は変化します。たとえば、牧草を食べて育った羊(グラスフェッド)では、胃の中での微生物代謝を経て作られるスカトールなどの成分や不飽和脂肪酸の割合が変化し、より青草感のある香りを生み出します。
このように、脂肪の量や育った環境、代謝のしくみといったさまざまな要素が複雑に重なり合うことで、その羊肉ならではの個性が生まれます。
ラムとマトンでは香りが違う
一般的に、若い羊であるラムは香りが穏やかで、成長した羊であるマトンは羊肉らしい香りが強くなる傾向があります。
羊が成長するにつれて、羊肉特有の風味に関係する成分が脂肪に蓄積しやすくなるためです。
ただし、ラムだから必ずクセがなく、マトンだから必ず臭いというわけではありません。
同じラムでも、品種、飼料、育った環境、脂肪の量などによって、香りの強さは変わります。
香りが穏やかで食べやすいラムにも魅力がありますし、羊らしい濃い味と香りを楽しめるマトンにも魅力があります。
どちらが優れているかではなく、好みや料理に合わせて選ぶことが大切です。
羊肉が不快に臭くなる原因
羊肉本来の香りとは別に、品質上の問題によって不快な臭みが生じることがあります。
主な原因として、次のようなものが考えられます。
・微生物の増殖による変敗
・脂肪の酸化
・不適切な温度管理
・保存期間の長期化
・凍結や解凍を含む流通工程での品質低下
羊肉は、香りが脂肪に強く表れる肉です。
その脂肪が空気や光、温度の影響を受けて酸化すると、古い油のような臭いや、羊肉本来の香りとは異なる不快な臭いが生じることがあります。
また、温度管理や衛生管理が不適切な場合は、微生物が増殖し、酸っぱい臭いや腐敗臭が発生することもあります。
こうした臭いは、「羊肉だから臭い」のではありません。
羊肉に限らず、牛肉や豚肉でも、品質が低下すれば不快な臭いが生じます。
真空包装を開けたときの臭いについて
真空包装された羊肉を開封した直後に、少しこもったような臭いを感じることがあります。
これは、包装内にたまっていた臭いである場合があります。
開封して肉を空気に触れさせ、数分たつと臭いが弱くなる場合は、必ずしも品質に問題があるとは限りません。
一方で、時間を置いても強い腐敗臭が消えない場合や、表面に強いぬめりがある場合、包装が不自然に膨らんでいる場合は、食べるのを避けてください。
見た目や臭いに不安がある場合は、無理に判断せず、購入した販売店へ確認することをおすすめします。
「クセがある羊肉」は悪い羊肉ではない
羊肉の評価では、「クセがない」という表現が褒め言葉として使われることがあります。
確かに、香りが穏やかな羊肉は初めての方にも食べやすく、さまざまな料理に合わせやすいという魅力があります。
しかし、クセがない羊肉だけが、よい羊肉というわけではありません。
羊肉を食べ慣れた方の中には、羊らしい香りや、脂の力強い風味を求める方もいます。
香りの穏やかなラム。
羊肉らしい香りを持つホゲットやマトン。
それぞれに異なるおいしさがあります。
大切なのは、羊肉本来の香りと、品質低下による不快な臭みを混同しないことです。
羊肉は、産地だけでは語れない
同じ国で育てられた羊でも、味や香りは同じではありません。
品種、月齢、性別、飼料、育った環境、脂肪の量、加工や流通の状態によって、羊肉の味わいは変わります。
羊肉は、産地だけでは語れません。
どこで育ったかだけでなく、何を食べ、何歳まで育ち、どのように加工されて届いたのか。
その背景まで知ることで、羊肉が持つ本当の個性が見えてきます。
まとめ
羊肉には、羊肉ならではの特徴的な香りがあります。
その香りは、羊の年齢、品種、飼料、育った環境、脂肪の量などによって変わります。
香りが穏やかなラムにも、羊らしい風味が強いマトンにも、それぞれの魅力があります。
一方で、脂肪の酸化や微生物の増殖、温度管理の問題などによって生じる不快な臭みは、羊肉本来の個性ではありません。
「羊肉らしい香り」と「品質低下による臭み」は別物です。
羊肉を「クセがあるか、ないか」だけで判断するのではなく、その香りがどこから生まれているのかを知ることで、羊肉の楽しみ方はさらに広がります。